IRとCSRをちょっとナナメから考えてみる〜ある実務家の備忘録

統合報告書(Integrated Reporting)・IR(Investor Relations)・CSR(Corporate Social Responsibility)に関連するテーマについて、思ったことを書き綴っていくブログです。なにかの役に立てばいいなぁ☆

【独断と偏見による統合報告書レビュー】味の素グループ統合報告書2017

(約2,400文字)

 

みなさま、お元気でしょうか?

GRIスタンダードの対照表作成に続き、他社のレポート分析を行っています。

今回は、とあるCSR担当者の独断と偏見によるレポートレビューをご紹介したいと思います。

あくまで個人の意見ですので、「コイツなんもわかってねぇなぁ~」みたいな声はご容赦いただけますと助かります。逆にもっとここを深く読むと理解が深まるというご指摘は大歓迎です。

 

記念すべき1社目は「味の素グループ 統合報告書2017」です!!!

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https://www.ajinomoto.com/jp/aboutus/integrated_report/?scid=av_ot_pc_comjheadbp_ir_integrated_report

 

なんで味の素かって?机の隅に積んであったレポートの山の一番上にあったからですけどなにか…。

 

 

■総論

・味の素の事業と戦略を事前に理解していないと、読み進めるのが難しかった

→ただただ自分の理解不足です…。でも率直な意見として書いてしまいました

 

・ただ、経営戦略や非財務との結合性、メッセージ性など情報量とクオリティは高い

→おそらく味の素のIRを一定以上理解している人セミプロ向けの編集となっている

→全体像を理解するためには、サステナビリティレポートもセットで読めば理解できる

https://www.ajinomoto.com/jp/activity/csr/report/index.html

 

■読んだ感想

・個々のコンテンツが分断され、情報の流れが理解しづらく、読み進めるのに苦労した

 

・一方で、冊子を通じてASVによる価値創造を社長・特集などで繰り返し訴求しており、味の素はASVを進めていこうとしているんだなという戦略は理解することができる

→食品メーカーは途上国の栄養支援を通じたマーケット確保やブランド価値向上など、CSVを進めやすい環境であると思う

 

・味の素グループが2020年度にグローバルトップ10入りを目指していることはわかった

 

ASVを通じた価値創造ストーリーの4つはわかりやすい

 

・しかし、ASVのコンセプトが明確になっておらず、読み手の誤解を招きそう

→味の素社内ではASVセッションなど浸透策を行っているが、外部への理解浸透を懸念

 

・目標とする経営指標をコーポレートブランド価値*としている点はユニーク

*インターブランド社のグローバルブランド評価指標。各ステークホルダーからの評価を集大成した共通指標

 

・社会価値と経済のつながり(P17)では非財務目標の推進による売り上げ増と、環境目標達成によるコスト削減によって、経済価値へ貢献しているという流れはわかりやすい

 

■各コンテンツの印象

①What's 味の素グループ

・情報の分断、唐突感があり、このコンテンツが読みづらさの元凶だと感じてしまう・・・

→ごめんなさい、結局なにが言いたいのかよくわからないコンテンツという印象でした(泣)

 

②トップメッセージ

・創業者の思いが根底にあり今日の事業展開につながっていることをトップが語っているのは、理念実践できていることが伺えて好印象

 

ASVが持続的成長につながると確認していることはコミットメントとして素晴らしい

 

・グローバルトップ10入りを本気で目指していること、トップ10と比較した際の課題を明確に認識していることは明確な分析と開示をしている点で好印象

 

・トップ10入りのなかで、経済(財務)面と社会価値(非財務)面の双方で経営トップが語っている点は財務と非財務の結合がされ、統合思考が浸透していることが読み取れる

 

③解説-味の素グループの非財務目標

・社会面は栄養ポリシーにはじまり、①肉・野菜の摂取量、②共食の場への貢献回数、③創出される時間、④快適な生活への貢献人数といずれも事業と絡む目標となっており、CSVを相当意識した指標(社会貢献ではなく経済価値の創出を目指す)となっている

→よくこれを非財務目標として設定できたな、社内調整大変だったろうなと感じた

 

・環境面は、製品ライフサイクル全体でカーボンニュートラルや廃棄物のゼロエミッションを目指すなど、野心的な目標をたてている

 

・ガバナンス面では、企業統治ではなく社員の働きがいを課題としている点がユニーク

 

CFOメッセージの印象

ROEを最重要指標とし、そのためにROAを高めていくことをコミットメント

 

・一方で、総資産回転率を高めていく施策や創出する営業CF目標に言及している点も配慮がされている

 

・D/Eレシオ50%でマネジメントするが、重要なM&A案件があった際には50%を超えて実施することも考えてるという内容から積極的な姿勢が感じられた(丁寧な記載)

 

⑤リスクマネジメント

・ESG分類でリスクの内容と対応を記載している点が非常にわかりやすい

→今後は有報に掲載する「事業等のリスク」をより掘り下げた開示が求められると感じる

 

⑥青山学院北川教授との対談

・やや太鼓持ち的な印象(!)もあるが、社長メッセージで語られなかった戦略の詳細(アミノサイエンスが先行投資型のビジネスであることなど)が理解できた。しかし、社長メッセージと重複する部分もあり、対談として伝えたいことがっやまとまりきっていない印象(企業価値創造とのつながりについて言及されていない気が…自分の理解不足ですきっと)

→前提として、北川氏自体が味の素の情報開示を評価しており、一定のバイアスがかかった記事といえる。そもそも対談記事を統合報告書に載せる必要があるかと思ったり思わなかったり~。

 

ASVの取り組み事例

・味の素の持続的成長を目指す源泉を読み取れる重要コンテンツ

→たぶん味の素では、事業活動そのものがCSVという理解で深まっている気がする

 

⑧成長戦略

・非常に詳細な情報が掲載されており、読み手が分析する必要量をカバーできている

 

・働き方改革(P49)についても年間の平均労働時間(約1,800時間)を記載するなど、現状を詳細に伝えている点は素晴らしいと感じる

 

・重視するESG30項目(P70-71)は、SASBのガイドラインなどを網羅的にカバーしており、グローバル企業として求められる活動に対応していこうという企業姿勢を感じる。

■当該レポートから所属先においても検討していきたいこと

・非財務目標と経営戦略の結びつき、そしてそれを開示するとりまとめ力

ASVセッションを通じたCSV理念の全社員への研修

・ESG30項目とCSR中期目標との照合

 

■その他の参考資料

・味の素は年1回投資家向けにESG説明会を開催

https://www.ajinomoto.com/jp/ir/event/esg_briefing.html

 

・直近では、オリンピックを意識して選手の栄養サポート「Victory Project」の取り組みをASVとして紹介

https://www.ajinomoto.com/jp/ir/event/esg_briefing/main/06/teaserItems1/01/linkList/0/link/Presentation_J_20170327.pdf

 

■さいごに

いやぁ読んでまとめて整理していたら、けっこうな時間がかかってしまいました。でも一冊通して読むと、本当に理解が深まりますね。ただ読む時間を確保しておかないと難しいのが課題かなと。このあたりはページ数の調整次第だとは思いますが。

 

一社目からけっこうなボリュームになってしまいましたが、次回もできればどこかの企業のレビューをご紹介できればと思います。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

とあるCSR担当者より